民族文化の違いからみるリズム感

民族文化の違いからみる“リズム感”

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民族文化の違いからみる“リズム感”

“打楽器”と“リズム”はとても密接な関係にあります。

 

そもそも、リズムの定義とは「規則的に繰り返す動き変化」ということなので、そこには連続する2つ以上の“点”が存在することになります。
音楽におけるリズム以外にも例えば・・・

 

・鼓動の”音”、または心臓が“収縮する動き”や“拡大する動き”そのもの
・毎日、必ず訪れる“日の出”、“日の入り”
・歩いたり走ったりする“動作”や“音”

 

これらの時間(テンポ)の長さはそれぞれ異なりますが、どれもリズムの定義にあてはまります。
自然が起こすリズム、機械が起こすリズム、人間が無意識のうちに刻んでるリズム、意識的に刻むリズムなど挙げればキリがないですね。

 

ここでは、人が普段の生活の中で感じとることのできるリズムに着目し

 

  • 1.『人種によって違うリズムの捉え方、感じ方 〜農耕民族と騎馬民族〜』
  •  

  • 2.『西洋文化に学ぶ“上の発想”』

 

この2つについて考えてみたいと思います。

農耕民族と騎馬民族

我々日本人はもともと、稲作などの農業活動が生活の主体にある農耕民族だといわれています。
一方、欧米人は騎馬による活動を生活の中心とした騎馬民族といわれます。
この両者の生活習慣の違いが音楽文化に与えた影響も大きいでしょう。
実際に、4分の3拍子や8分の6拍子は、馬が走ったときの「パッカパッカ」という音から生まれますが、リズム(カウント)の取り方は馬が地面を蹴り上げるときでしょう。
馬の走る姿をイメージでいうと・・・

  • 躍動的
  • 回転性がある
  • 蹴り上げるという反動力・“アップ”の感覚

このような動作を日常の中に取り入れていた欧米人ですが、このイメージにとても似ている舞台舞踊に西洋で生まれた『バレエ』があります。
跳躍と回転を加えながら全身で表現する姿はとても軽やかで躍動感溢れていますよね。

 

また、その踊りに合わせる音楽に代表的なものでチャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『眠れる森の美女』の三大バレエがあります。
どれも「音楽」単体としてもとても魅力ある作品で、軽やかな踊りに合わせた4分の3拍子のワルツもあれば、日本にも馴染み深い美しいメロディーがあったりと劇の表現を高める表情豊かな曲ばかりです。

 

次は農耕民族である私たちの文化を考えてましょう。
日本人は稲作などの農業活動が生活の主体にありました。
中腰の体勢で稲(いね)を土に植えつけ、収穫の時期には鎌(かま)を用いて稲刈りを行いますが、そのときのリズム(カウント)の取り方は、鎌を振り下ろしたタイミングで「よいしょ、どっこいしょ」といった感じでしょう。
その動作のイメージは・・・

  • しっかりと地に足が着いている
  • 穏やか
  • 上から下への方向“ダウン”の感覚

といった印象があり、先ほどの騎馬の動作と比べると真逆といっていいほど感覚が違いますね。
また、そんな民族文化の中で生まれた日本の伝統芸能に『能(のう)』があります。
その動きは『歩行の芸術』ともいわれ、足の裏を付けてかかとを上げない歩き方が基本になっているそうです。
『バレエ』はつま先立ちをしたり飛び跳ねたりするのに対して、『能』は足に根が生えたような非常に安定した滑らかな動きです。

 

このように、国や人種によって使う言語や食文化が違うように、その土地の習慣や文化から生まれる芸術(音楽)も大きく異なっていることがわかります。
また、農耕民族は“下の発想”、農耕民族には“上の発想”が根付いているので、リズムの取り方も前者は下方向に力が働いたときにカウント、後者は上方向に力が働いたときにカウントするという感覚が知らず知らずのうちに身に付いているのでしょう。

打楽器と向き合う上で大事な“上の発想”

私が音大生だった頃、週に1回打楽器アンサンブルの授業が行われていました。
授業を受ける生徒の数は6人、当時の先生はクラシック音楽における打楽器界の重鎮です。

 

アンサンブルの授業といってもスティックやマレットを持たずにさせられることといえば・・・
スネアドラムを両手で持って、回転させながら上にポーンと連続して投げる練習だったり、ティンパニを横に寝かせて手で叩くのではなく足で蹴って音を鳴らしたり、あるときは鳥が羽ばたく瞬間の動作を真似させられたりという内容です。

 

一見、何も知らない人が見たら何かの宗教と間違えられるような授業ですが、その先生が言うには「農耕民族である我々日本人には“ダウンの感覚”が根付いている。稲作をする動作、文字を書くときも上から下、お辞儀などなど・・・確かに打楽器は一般的に上から下に振る下ろすことで音を出すが、そこには“下の発想”ではなく、むしろ“上の発想”を持つことが大事である」と言うのです。

 

そのようなことすら意識していなかった私はショックを受けると同時に打楽器に対する新しい見方を発見することができたのです。
リズムの感じ方や音の出し方が日本人と欧米人とで何かが違うとは薄々感じてはいましたが、その秘密がそこに隠されているのではないかと、それからは日常的な動作とリズムを関連付けることを意識しはじめました。
具体的に“上の発想”を持って音楽と向き合うことで音やリズムにどのような変化が生まれるのかは、また別の機会に詳しくお話したいと思います。

 

 

私たちが普段、ドラムやパーカッションを使って演奏する音楽ジャンル(ロックやジャズなどのポピュラー音楽やクラシック音楽)のほとんどが西洋音楽に発祥したものです。
テクニックを磨くことももちろん大事ですが、多くの異文化やその音楽に触れることでより良い演奏につながるヒントを得ることができるかもしれませんし、感性も磨かれます。
新しい自分の発見のためにも、ぜひ視野を広く持って演奏を楽しんでいってください!

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